目的

IRT座談会第4回「鉱山建機のロボット化」

災害復興によって重機ロボットへの期待が高まっていますが、日本の建機のトップメーカーである株式会社小松製作所では、すでに海外の鉱山において自律走行する無人ダンプトラックを運用しています。昨年11月に、オーストラリアの鉱山向けに150台の無人ダンプトラックを導入するというニュースが流れましたが、その詳しい内容について、同社研究本部 技術イノベーションセンタ副所長の浅田寿士さんにお話しを伺いました。
—— まず、御社の事業内容について教えてください
interview昨年度の建設機械セグメントの連結売上は1兆7400億円でした。バブル崩壊、アジア通貨危機、リーマンショック後に業績が大きく沈んだのですが、近年は順調に業績を伸ばしています。これは主に海外市場の伸びが大きく、バブル期までは国内市場が半分くらいの割合を占めていたのに対し、現在では16%にまで比率を下げています。その分海外の市場が大きく伸び、売上でトップがアジアの18%で、日本の16%、北米の14%、中国の12%、中南米の12%と続いています。中国は昨年からの需要減により売り上げは減少していますが、ここ数年で一気に拡大してきています。
コマツの主要製品は鉱山建機ですが、百トン以上の大型建機は一台あたり数億円規模となります。ひとつの鉱山で採掘が始まると何十年間も掘り続けるわけですが、この間5〜10年ごとに建機の入れ替えが行われます。また、日常的に部品の交換やメンテナンスが発生しますので、ビジネスとしては比較的安定していると言えるかもしれません。
—— 中国企業などの参入はないのですか?
あります。中国国内の市場では中国企業の進出が目立ってきています。製品についてはエンジンや油圧機器などのキーコンポーネントは先進国のいろいろなメーカーのものを集めてつくっているようです。 価格は非常に安く、苦戦を強いられることも多くなってきました。しかし、これは中国国内に限った話でして、全世界で見るとこうした脅威を感じる状況にはまだありません。我々は世界中への販売・サービス網をつくるのに30年かかりましたが、こうしたものはいくら中国でもそう簡単にできるものではないと考えています。
また、我々は今回の話題でもある「無人ダンプトラック運行システム(AHS=Autonomos Haulage System)」など、新たな技術も積極的に取り入れています。新たな技術の採用によってコストアップになるのではという指摘もありますが、こうした新技術の採用は我々以上に顧客が積極的で、人間が運用することで発生する事故や故障、休憩時間などをトータルで考えるとコストダウンになると歓迎する顧客は少なくありません。
—— 無人ダンプトラック運行システム(AHS)について、詳しく教えてください
AHS鉱山の中では、掘削用の建機、掘り出した土砂を移動する建機、積まれた土砂を動かす建機などいろいろな種類の建機が動いています。ダンプトラックは掘削した土砂を運ぶ建機なのですが、積載量が200〜300トンなどたいへん大きいものです。そのため鉱山への搬入には、車体を分割して輸送し、現地で溶接して組み立てる必要があります。こうした超大型の機械が鉱山の中を何十台も動いているわけですから、事故がどうしても発生してしまいます。特にダンプトラックは鉱山の最下部にある掘削箇所から土砂置き場のある地上部まで、すり鉢状の道路を何時間も掛けて登ったり降りたりするわけですから事故も発生し易くなります。そこで、およそ20年程前から無人で自律走行するダンプトラックの開発と実用化を進めてきました。
現在の「無人ダンプトラック運行システム(AHS)」は、車体にミリ波センサ、ジャイロ、RTK-GPSを搭載して、ライトビークルを走らせて予め作成した地図情報を利用し、自らの位置と周囲の状況を認識して完全に自律で走行できるようになっています。道路脇の崖や落石などの障害物、周囲にいる人間も認識できる性能を持っていて、事故を未然に防ぐことができます。
こうした安全性が評価されて、昨年オーストラリアのリオティント社と、オーストラリア北西部のピルバラ地区にある複数の鉄鉱山において2015年までに150台以上の無人ダンプトラックの運行を目指すことで同意し覚書を締結しました。トラックの導入は本年から順次開始します。
—— 無人走行システムの他には、どのような技術開発を行っているのでしょうか。
まずは「騒音対策」です。皆さんちょっと信じられないかもしれませんが、現在の建設用建機の運転室の騒音レベルは、トヨタマークXと同程度に静かになっています。自動車は走行することで外気を取り入れることができますが、建機の場合は一箇所に止まっていますのでファンだけで風を送り込まなければなりません。必然的にファンが大型になり、騒音が大きくなります。ファンの形状や運転室の防音などを改善することで作業員のストレスを軽減できるように研究を進めています。 また「乗り心地」も重要なテーマです。タイヤに比べて履帯を採用している建機は路面の衝撃が大きく、ちょっとした岩があっても体が激しく揺さぶられるほどの振動が発生します。 これを和らげるために、シート下の衝撃吸収機構などを開発しています。
さらに、「ハイブリッドシステム」も既に導入を開始しています。2008年には世界初のハイブリッドシステムを搭載した油圧ショベルを発売しました。ハイブリット化により、燃料消費量を25%以上低減しています。油圧ショベルの車体旋回の減速時に発生する膨大なトルクエネルギーを電気に変換してキャパシタ(コンデンサ)に蓄え、これを車体旋回加速時やエンジン加速時の補助エネルギーとして活用しています。
先ほどの無人ダンプトラックは、土砂を降ろした帰りに鉱山の長い下り坂を降りているわけですから、この時にたくさんの位置エネルギーを回収できるはずですが、残念ながら現状ではそれを貯めておける良いバッテリーがありません。こうしたことを今後技術的に解決していく必要があると思っています。
—— 建機以外ではどのような研究を行っているのでしょうか。
以前は半導体関連製品などいろいろな研究をやっていましたが、現在ではほぼ建機関連とプレスなどの産機関連に集約しています。
—— 最後に大学との産学連携の状況と、それに対するご意見をお聞かせください。
東大、横浜国大、金沢大、大阪大とは包括的な産学連携契約を結んでいます。 その他の大学とも必要に応じて単体の契約を結んで共同研究を行っています。最初の頃はうまくいかないことも多かったですが、最近は非常にうまくいってます。大切なのはスタート時の充分な話し合いが重要だと感じています。企業と大学は立場も目指すものも違うわけですから、最初にお互いに意見を出し合って、双方の考え方を十分に理解し合うことが、その後の研究をうまく進めるコツです。あと、期間を定めることも重要ですね。
企業にとって大学に期待することのひとつに「メカニズム解明」があります。これは、企業が試行錯誤によって発見した結果を、どうしてそうなるのかを後から大学に解明してもらうというやり方です。メカニズムがわかれば、その後いろいろと応用できますので企業にとってメリットが大きくなります。
—— 最近は景気の悪い話が多いですが、久しぶりに明るいお話を聞けて嬉しくなりました。ありがとうございました。
(2012/05/15)