目的

IRT座談会第6回「"売れる"ロボットへの挑戦」

ロボットの実用化が叫ばれて久しいですが、依然として研究室から社会に出ることのできないロボットもたくさんあります。優れた技術や機能を備え、ユーザーニーズにもマッチしているにも関わらず、実用化に至らないのは何故でしょうか。今回はこうした疑問に迫るべく、ロボットベンチャーの草分けとも言える株式会社ZMPの谷口恒社長にお話しを伺いました。
−− 今回、物流支援ロボット「CarriRo(キャリロ)」を発表されましたが、反響はいかがでしたでしょうか?
chibaすごい反響です。発表して以来、いろいろな方面から問い合わせが来ています。大手物流企業からもコンタクトがありました。キャリロの開発にあたっては、まず現場の人が楽になるように、すぐ使えるように、ということを重視してきたのですが、これはZMPのこれまでの経験則から得ています。ZMPの創業時には、世の中にないものをつくろうと人型ロボットなどを開発してきたのですが、一部の人には浸透するけれど、世の中全体に対するインパクトが弱かったり、ロボットの性能や機能に制限されて人間の仕事を変えなければならなかったりといったジレンマをずっと抱えてきました。今回のキャリロの開発は、こうしたジレンマを打ち消すことができるような単機能ロボットをつくろうというところから出発しました。
では、どんな機能を持たせるのか?私たちは、まず1人の作業員に複数の台車がついてくる「かるがも機能」を最初に考えました。これは物流の現場に行くとわかるのですが、1人の人が同じ場所を何回も往復する光景がたくさん見られます。こうした非効率を解消する上で「かるがも機能」はとても効果があると判断しました。さらに、重いものを運ぶ時には台車と言えども結構力が必要になります。坂道だとさらに重労働です。女性や高齢者にとっては負担が大きく、就労機会を阻害する要因ともなります。そこで次に「パワーアシスト機能」が重要と考えたわけです。「パワーアシスト機能」は、ハンドルにつけたセンサーによって台車を押す力(または引く力)を検出し、車輪に取り付けたモーターで移動を補助します。現在のプロトタイプは力制御がまだしっかりとできていませんが、今後こうした機能を充実させていく予定です。
さらに、いろいろな現場の様子を眺めていると、工場や倉庫など決められた場所で決められたルートを移動するケースも多いことがわかってきました。こうした場所では「自律移動機能」が役に立ちます。移動する範囲内にビーコン等を設置し、台車の前後に人や障害物を検知するセンサーを取り付けることで、作業員がいなくても台車だけで安全に荷物を定められた場所に運ぶことができます。
「自律移動機能」は全てのユーザーにとって必要な機能ではありませんから、付加的な機能として提供する予定です。なぜなら、自律移動機能付きのロボットを導入するとなると工場全体のレイアウトを見直したりしなければならないので、エライ人の判断が必要になってしまいますが、かるがも機能やパワーアシストがついただけの「台車」なら現場の判断で買っていただけますからね(笑)。
−− 台車ロボットを開発するにあたって工夫された点は?
chiba何よりも「耐久性」です。台車メーカーの方に伺うと、台車の扱いはかなり乱暴で、耐久性を高めるためにいろいろな工夫をしているとのことです。ロボット化に際してはこの課題を乗り越えることが重要とわかりました。そこで今回、THK株式会社と日本電産シンポ株式会社の協力を得て、クロスローラーリングとギアのないトラクション減速機を組み込んだインホイールモーターを新たに開発していただきました。ギヤがなくなったことで耐久性が飛躍的に高まりましたし、静音性も高めることができました。現在のプロトタイプは6輪機構として駆動部を中央に配置していますが、これだと段差を乗り越えるときに駆動部が衝突してしまうことやデコボコ道で浮いてしまうことがあるため、製品版では4輪機構とすることを考えています。
−− 販売戦略はどのように考えていますか? また、売れることがわかると、海外の安い模倣品が入ってくることが懸念されませんか?
キャリロは1台40万円くらいになる見込みです。これは、業務用の一般的な台車が2万円程度ということを考えるととても高く感じますが、現場の企業の方に伺うと必ずしもそうではないことがわかりました。というのも、キャリロをリースで契約すると1ヶ月あたり大体7000円くらいになるのですが、月7000円で作業員の負担が軽減されるなら決して高くない、特にバイトの方などが重労働に感じて短期間で辞めてしまうのを防げるのであれば、欲しいと思う企業はたくさんあるはずだ、ということでした。そこで、販売に当たってはこうしたニーズが強い大手物流会社などから始めて、徐々に中小の工場などに広げて行くことを考えています。
海外の模倣品については、ある程度売れるようになると、そうしたことが起こることも想定しています。台車の市場は年間70から80万台くらいあるそうですが、この内の数パーセントでもシェアを獲得できれば大きな市場となります。例えば10万台なら400億円です。これくらいの規模になれば、一定のシェアはそういった製品に流れていくかもしれませんが、私たちは「真似できない技術」によって闘うしかありません。こうした技術によって優れた機能と信頼性を維持していけば、必ず競争に打ち勝てると信じています。
−− インテルの出資を受けられましたが、どういった経緯か教えていただけますでしょうか?
今年の5月にインテルキャピタルから投資を受け入れました。日本では何十社か投資先があるようですが、その中でも比較的大型のようです。インテルキャピタルは本業へのシナジー効果の高いところに出資をする方針とのことですが、当社のロボットカー事業を高く評価していただいたということだと思います。昨今のIoT(Internet of Things)への注目の高まりも影響しているのかもしれません。アメリカでは何年か前に電気自動車のベンチャーがたくさん立ち上がりましたが、そのほとんどは消滅してしまいました。自動車ビジネスは充電ステーションや法規制など社会的要因との繋がりが強く、コンシューマー向けに製品を販売するビジネスはハードルが高かったのだと思います。私たちはこれらとは一線を画し、自動車メーカー向けに開発ツールを提供するB2B型のビジネスに特化しています。こちらで6〜7割程度まで開発したものを自動車メーカーに提供しています。自動車メーカーは、ロボットカーの基本的な機能の開発にリソースを割かれることなく、目的の研究開発に集中することが可能となります。こうすることで、既存の自動車メーカーと競合せず、複数の自動車メーカーと取引させていただくことが可能となっています。こうしたビジネスモデルも評価いただけたのだと思います。
−− 最後に、ロボットの実用化にとって今何が重要か、お考えをお聞かせいただけないでしょうか?
「置き換わること」だと思います。ロボットはこれまでできなかったことができるようになる技術として、いろいろな夢が描かれてきましたが、いざビジネスとなるとなかなかうまくいかない。たとえば1人乗りのモビリティロボットなら自転車やシニアカーと置き換えるとうまくいく。現状では道路交通法など制度的な壁が高いので当社では優先順位を下げていますが、個人的にはぜひやりたい領域です。ヒューマノイドも個人的には大好きですが、実用化ということではまだまだ先のことと思います。一方、農機や建設機械は可能性が高いですね。このようにロボットが社会に実装されていくためには、既にあるものを置き換えていくことが重要なのだと思います。
−− ありがとうございました。
(2014/08/04)